なによりも自分のためのブログ

これまでに考えてきたこと、ふと思いついたことを発信していきます。

「ポスト大学生」制度による新たな挑戦の実現―納得感のあるキャリア形成に向けて―

1 はじめに

 「とりあえず大学院に進学するよ。」文系学生が就職活動解禁を前に焦りを感じる中、理系学生がしばしば口にする発言だ。工学部で機械工学を学んでいた私も例外ではない。入学当初からなんとなく進学を前提としていた。3年生の夏にふとこれまでを振り返ってみた。必修だから履修したアジアの歴史の講義では自分の価値観が儒教的な思想に基づいていることに気づき面白さを感じた。留学生との交流を通じて考え方の違いを知り視野が広がった。書店でビジネス書を手に取ってみるとビジネスのスケールの大きさに驚いた。大学主催の工場見学ではどの工程も迫力満点で感動した一方、その管理は理論に基づき緻密に行われており大学での学びが活きていることを知った。こうした多くの気づきを経て、とりあえず進学することに疑問を感じていた。ひょんなことから所属している大学院を知った。直観的にこれだと思った。間違った選択ではなかったが安直な選択だった。じっくりと自分の興味関心や適性と向き合った上で納得感をもって進路選択をするべきであったと思う。こうした私自身の体験から本稿の提言は生まれた。

2 「流される大学生」には4年間は短い

 四年制大学では1年生では一般教養を中心に学ぶ。また、専門科目を初歩的なものから学び、集大成として卒業論文を仕上げる。大学入学当初、学生は高校生の延長線上におり受動的な「生徒」状態を継続している(1)。「生徒化」している大学生は他律性と依存性を特徴としており(2)与えられるものをこなしていくだけであるため、いまひとつ学問の面白さを理解できない。なんとなく毎日に物足りなさを感じ、サークル活動やアルバイトに励みながら毎日を楽しむことを重視する。多様な価値観と触れることで新たに自分の適性や興味関心に気づきこれまで見向きもしなかった分野の本を手に取るといったことが起きる。この過程で「生徒」を抜け出しつつ興味関心の幅が広がると共に思考力や洞察力が養われていく。それに加えて研究を始めてみるとこれまで薄れていた自分の専門分野の面白さも再発見する。こうして面白いと思えるものが多くあることに気づき自分の歩むキャリアの選択肢が増えていく。しかし、その頃には就職活動解禁の号令がかかろうとしているのだ。理系学生であれば進学か就職の選択をしなければならない。ゆっくりキャリアを考える時間が欲しいからと言って休学するにも就職の時には不利に働かないのだろうかという不安が頭をよぎる。このように大学生の多くが環境や出来事に強く影響を受けて周囲に流されている現状がある。
 マイナビの2017年卒学生を対象に行った調査(3)では「なにがなんでも就職したい」と87.6%が回答した。就職に対する焦りと執着を感じる大学生の姿が読み取れる。その結果、強引に決めた就職先でミスマッチに悩むことも多く、厚生労働省(4)は平成24年3月新規学校卒業者が3年以内に離職した比率は32.3%に達すると報告している。また、多くが進学する理系学生もその進学理由は「興味を深めたかった」と52.3%の学生が回答する一方で「進学が当たり前だと思った」が41.9%に上り、能動的に自身のキャリアを考えているとは言い難い(5)。取材をした理系大学院生からは「進学するにしても一度は社会のことを知るべきだった」という反省の声も挙がった。
 単に現代の日本の大学生の考え方が甘い、時間の使い方が下手であるという結論で片付く問題ではないと思う。過去を振り返りあの時もっと勉強しておけばよかった、もっと違う世界に飛び込んでみればよかったという後悔は世代関係なく聞く声である。卒業後に自分探しのために長期間旅行をする北欧諸国と比べると大きな相違がある。頻繁に価値観を変化させながらも時間を費やすべき進路選択には時間をとれない「流される大学生」に対して、キャリアを見つめ直し新たな挑戦をできる環境を整えるべきだと考える。こうした背景から本稿では「ポスト大学生(Post Bachelor、以下PB)」制度の導入を提案する。

3 「ポスト大学生」制度の構想

 ドイツにはAusbildung(アウスビルドゥング)制度という働きながら専門学校に通う制度がある。日本の高卒に相当する人が就職を前にこの制度を利用してスキルの習得を図る。そして公的にその認定を得ることで社会的な信用を獲得することができ、就職の助けとなるそうだ。本稿でもこうした社会的な信用を得つつ自身のキャリアデザインを行える制度を提案したい。公的な認定を保証することでなかなか踏ん切りが付かない「流される大学生」の心理的不安を低減することができるはずだ。具体的には、学士取得後の就職あるいは大学院進学前の期間に「ポスト大学生(PB)」という新たな学生の身分を設けることから始まる。学部卒業前の時点でのキャリアの考え方や興味関心、PB認定後の活動計画等を踏まえて面接や書類で審査と認定を行う。このPBの期間に在学していた大学を離れ、例えば留学やインターンを行い、未知の世界と交わる。こうした中で自分の興味関心を新たにみつけたり、あるいは自分の強みや適性を発見したりする。内省や自己分析を繰り返しながら納得感をもって就職や大学院進学といった新たなキャリアを歩んでいくことを目指す。また、PBの在籍期間は各自が自由に決定できるものとする。自分自身が納得のいくキャリアの決定ができ、ベストなタイミングで各々の新たな挑戦を始めることができる。

3.1 PB制度で提供するチャレンジプログラム

 PB制度は新たな世界に飛び込むチャンスを提供する。自分の専門を飛び出して他専門という新たな世界に飛び込む「他専門チャレンジ」、学生としてではなく社会人として扱われるビジネスの世界に挑戦する「ビジネスチャレンジ」、国を越えて全く異なる価値観と触れる「異文化チャレンジ」である。以下、詳細を説明する。

3.1.1 他専門チャレンジ

 学部時代に学んだ専門科目とは異なる専門領域について知ることを目的とする。異なる大学を複数訪問しながら自分の見識は浅いものの興味のある専門領域の講義やゼミを選んで参加していくというものである。例えば、文系の学生がプログラミングやデータサイエンティスト関連の講義を受けたり、理系学生が経営や経済あるいは法律のゼミを受けたりといった具合である。東京医科歯科大学一橋大学東京外国語大学東京工業大学四大学連合で講義の機会を提供している。こうしたプログラムをPBも参加可能にすることで実現できると考えられる。ここで注目すべきなのは大学自体も複数を訪問することである。実体験から、大学も所在地域や扱う専門分野によって学生の雰囲気や考え方は異なる。多様な価値観と多く接点をもつことで自分の価値観を相対化していく。

3.1.2 ビジネスチャレンジ

 就職をする前に実際に働いてみる試みである。企業等が提供している長期インターンを通じてビジネスの実状や、業界の動き、あるいは働くことの意義を見出すことができる。こうした実務経験を積む中で自分の適性が発見できるはずだ。また、インターン先では自分のロールモデルとなる社員と出会う可能性もありキャリア形成の大きな助けともなる。不向きな点が分かったとしてもそれを基に自分のキャリアプランに活かすことができるため収穫となる。企業側としても時間をかけて判断した上で長期インターンに参加したPBにオファーを出せばミスマッチの少ない採用が可能になるはずである。

3.1.3 異文化チャレンジ

 大学4年間では興味がわかなかったり決断できなかったりした留学に挑戦できるのがこの制度である。必修の講義や卒業研究もないので金銭的目処が立った段階、自分に都合の良いタイミングで踏み出すことができる。しかし、多額の出費があるため経済的な制約は大きな障壁になる。そこで国内であっても異文化交流ができるように地域に暮らす外国人や留学生との交流会を設ける必要がある。また、文部科学省が提供するトビタテ!留学JAPANのようなプログラムが利用できることが望ましい。金銭的補助も充実しておりプログラム利用者からは経済的負担を感じずに異文化と触れて学びを得る機会をもつことができたという声も聞いた。こうしたプログラムがPBの活動の可能性を広げることができる。

3.2 キャリアメンター制と人材育成

 キャリアデザインでは納得感を得ていくことが重要である。過去を見つめ直すことで自分自身を知り、現在の自分の考え方や意思に素直に向き合う必要がある。そのためには腰を据えて冷静に自分を分析する時間も不可欠だ。そのサポートのためにキャリアメンター制を整える。キャリアメンターとはPBのキャリア相談に応えるパートナーである。キャリアメンターには多様な人材を揃える。前述のチャレンジプログラムにより企業等とのネットワークが形成され、トビタテ!留学JAPANプログラムのような官民協働の体制が整えば豊富なキャリアを持った人材を集めることができる。例えば、現場の第一線で活躍するビジネスマンや起業家などが考えられる。また、来たる高齢社会において退職後も社会への貢献の場を探す経験豊富なシニア層、PB制度が定着すればこの制度のOBやOGも強力な援助者になる。ただし、このメンター制の趣旨はPBの内省の場の提供であるため一方的にメンターの考え方を押し付けるようであってはならない。メンターの選抜や研修、PBからのフィードバックを通じてメンターの育成も重要となる。

3.3 PB制度を支えるサポートシステム

 金銭的サポートも重要である。公的にPBを学生と扱うことができれば、学部在学時と同様に奨学金や給付金の利用も可能になる。また、PB間の交流を図るコミュニティの構築も重要である。特定の大学に所属しないことで自由な活動ができる反面、安定した人との交流や相談の場が設けにくい懸念があるからである。その結果として情報収集の場も少なくなる恐れもある。そこで、PB間の交流会や留学やワーキングホリデーの案内、長期インターンの斡旋などを集約したWEBサイトの立ち上げが有効であると考える。新たな挑戦を促しその経験によって自身の視野を広げるチャンスを提供する。

4 PB制度の課題と対策

 PB制度導入の課題となるのは社会的な孤立とそれに対する不安である。本稿でアプローチの対象としている流される大学生はそれまでのキャリアで多数派と同じ選択をしてきているものと考えられる。PB制度を導入したとしても全く新しいPBという進路選択をするかは疑問が残る。制度的にはPBの意義や社会的な身分が保証されていたとしても実際の周囲の人間がその存在意義や価値を認めてくれるのか、といった不安を抱えるはずだ。また、PBになったときに就職者や大学院進学者から孤立しないか、PBの中でも孤立しないかといった不安がよぎるはずだ。そうした想定される課題や問題点に対して、インターンやメンター制によって企業を巻き込むことで企業からの理解を得たり、PB内での交流の場やそのインフラを整えたりすることが解決策となるはずだ。
 しかしPB制度に対して、単なるモラトリアムの延長だ、だらしない大学生を増やすだけだ、といった指摘はやはり挙がると思われる。こうした厳しい指摘に対しては時間をかけて実績を残していく必要がある。様々な挑戦や経験を通じてPB一人一人の能力的、精神的成長を促す。PB在学を通じて悩み、考え、行動を起こして挫折や困難を乗り越えながら人間的成長を実現させる。そしてPBを終えて社会に出たときには大きく飛躍する。そうした実績を積み重ねていく必要がある。

5 おわりに

 意思決定には納得感が重要である。PB制度は自分の属する世界を変えながら新たな挑戦を可能にする制度だ。挑戦を通じて得た価値観をキャリアメンターと共有しながらさらに新たな、次の価値観を発見する。こうして納得感をもって自分のキャリア形成をしていく。納得感があれば、自分の思う生き方、大切にしたいことを信じることができる。これまでは流されてきた固定観念やドグマをきっぱりと捨て去ることができる。こうして成長した「流されてきた大学生」が様々な挑戦を繰り返し周囲の人間の世界も変えていく。そんな未来をPB制度は実現できると思う。

 

参考文献
1)2014年大学生の意識調査、全国大学生活協同組合連合会、2015年4月(http://www.univcoop.or.jp/press/mind/report-mind2014.html
2)伊藤茂樹、大学生は「生徒」なのか―大衆教育社会における高等教育の対象―、駒澤大学教育学研究論集第15号、1999年(http://repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/15869/KJ00005099249.pdf)
3)2017年卒マイナビ大学生就職意識調査、株式会社マイナビ、2016年4月(http://saponet.mynavi.jp/enq_gakusei/ishiki/)
4) 新規学卒者の離職状況、厚生労働省、2015年10月(http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11652000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu-Jakunenshakoyoutaisakushitsu/0000102407.pdf)
5) 第8回全国院生生活調査、全国大学生活協同組合連合会、2014年(http://www.univcoop.or.jp/activity/wa-master/wa-master03.html)

知的財産権について

 企業が自社の技術を保護し,優位性を維持して利益を確保していくためには,「知的財産(Intellectual Property,IP)」の戦略は重要です.ここでは,知的財産の内容や,それを保護する知的財産権の種類についてまとめていきたいと思います.

 

知的財産とは

 現代は様々な情報に溢れた社会であり,利用価値がある情報を,知であると言えます.つまり,現代は,知識社会であるといえるのです.そして,こうした知識に溢れた社会において生み出されてきたのが「知的財産(IP)」です.つまり,知的財産とは,「我々の知(知識や知恵)によって生じたもののうち,価値があると認められるもの」と定義されています. そして,こうした知的財産を保護するための権利を,知的財産権といいます.

 

 

知的財産権の種類

 知的財産権は,技術などに関する「産業財産権」と,文学などに関する著作権等に大別されます.ここでは,知的財産権のうち,産業財産権を主に説明していきます.
産業財産権の中には,「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」という4つの権利があります.
 産業財産権によって,製品に個性をもたらす機能や性能,ブランドなどを保護します.しかし,こうした個性や機能は,日進月歩の技術革新からもわかるように,すぐに陳腐化していきます.したがって,すぐに新しかったアイディアも古くなってしまうのです.そこで,特許権は有限期間の権利であり,保護期間が決まっています.
 しかし,一方で,商標権は,ブランドの永続性を確保するために,更新手続きを行うことを条件として,保護を継続的に受けることができるようになっています.
 著作権は,産業の発展を目指す産業財産権とは異なり,思想(アイディア)そのものは保護対象にならず,思想の表現が保護対象になります.

 

知的財産を保護する権利の種類

 産業財産権について,個別に説明していきます.

 

特許(発明)

特許権は,発明と呼ばれる比較的程度の高い新しいアイディアに与えられます.「物」「方法」「物の生産方法」の3つのタイプがあります.出願から20年間保護期間があり,医薬品等については延長できる場合があります.

 

実用新案(考案)

発明ほどは高度なものではなく,言い換えれば小さな発明と呼ばれるものです.実用新案権は無審査で登録されます.保護期間は出願から10年間です.

 

意匠(デザイン)

物の形状,模様などの斬新なデザインに対して与えられます.登録から20年間が保護期間です.

 

商標(マーク)

自分が取り扱う商品やサービスと,他人が取り扱う商品やサービスとを区別するためのマークに与えられます.登録から10年が保護期間です.

 

まとめ

 今日は,インターネットの普及からあらゆるネットワークが構築された,高度な知識(情報)社会であるといえます.知的財産は,不正に利用されたり外部に漏れたりしやすく,侵害を受けやすい財産であると考えられます.また,ソフトウェアなどの無形資産の重要性もますます高まり,知的財産も従来よりも多様化しているように思えます.こうした現状下では,企業の製品開発や利益を生み出す源泉となる知的財産の保護は必要不可欠であり,知的財産の保護と利活用が重要です.

 

出典

www.jpaa.or.jp

 

事業戦略と知的財産マネジメント

事業戦略と知的財産マネジメント

 

 

 

「多様性」には類似性が必要である

 米国大統領に就任し,公約を次々と断固するトランプ氏の行動に,批判の声は大きい.LGBTイスラム教徒の立場を追い詰める施策が命じられ,「多様性」を否定し,米国の「ダイバーシティ」が失われるとの批判がなされる.しかし,「多様性」とは,そもそも,なぜ重要であるのか.その点について一度,立ち止まって考えてみたい.
 
「多様性」は以下のように説明される.

幅広く性質の異なる群が存在すること。性質に類似性のある群が形成される点が特徴で、単純に「いろいろある」こととは異なる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9A%E6%A7%98%E6%80%A7

つまり,類似性が見られながらも少しずつ異なる点もある,緩やかなつながりを持つ性質が,多様性と言える.全く異なるもの同士が単に集まっただけでは,多様性があるとはいえない.

 

 この多様性が否定されてはならない理由は,倫理的な規範による.人権の尊重という現代の基礎的な価値観に基づき,自分とは異なる文化や思想,身体的・精神的特徴を有する人を,否定したり,虐げたりすることは許されない.つまり,多様性を否定することは,倫理的に反するものであり,一部の価値観や集団を一方的に押し付けるものである.これについては,許してはならない.

 

 多様な人が一緒に生きていく以上,単に,自分と異なるからという理由で,虐げたり排除しようとしたりしてはならない.つまり,自然な多様性の高まりを拒絶することはあってはならないということである.しかし,一方で,多様性を積極的に促進することの意義とはどこにあるのであろうか.

 

 多様性を積極的に進めるとは,集団内に様々な宗教的・文化的・身体的特徴の異なる人々を積極的に増やしていこうということを意味する.その結果として,様々な「考え方」を有する集団へと変化していく.企業であれば,多様な考え方をする人が多いほど,知的生産性は向上すると考えられる.異なる考え方の人々が議論を重ねることで,気づきの数も増え,着眼点の選択肢が増え,斬新なアイディアも出やすくなると思われる.つまり,多様性促進の積極的理由とは,集団としての能力の向上に寄与することにあると考えられる.

 

 しかし,集団としての向上のためには,その構成員が,相互に尊重し合い,耳を傾け合うという個人の中の意識についての類似性がなければ成立しない.ただ,いろいろな人が集まっただけでは,意味がないのである.時に,意見が真っ向から対立し,利害が一致しなかったとしても,お互いに耳を傾け合う精神を忘れてはならない.
 
 以上のように,多様性は,異質性とともに類似性も有することを前提とした概念であるとともに,その多様性の維持のためには,異質さに耳を傾け続ける,ある種の忍耐的寛容性が必要不可欠だと考えられる.

「受験勉強」で得られるもの,得られないもの

 受験生にとっては極めた重要な時期にある.センター試験が終わり,AO入試,私立大学入試,国公立大個別試験が直前になり,緊張感やプレッシャーに悩まされている受験生は多くいることと思う.こうした試験では,基本的には,ペーパーテストにおいて高い点数をとることが重要である.その数点の差が,合否を決めるからだ.こうした,受験において高い点数をとるための勉強は「受験勉強」と呼ばれ,ネガティブに語られることが多い.ここでは,受験勉強を盲目的に否定するのではなく,それによって身につく力,獲得できるマインドセットに焦点を当てたい.それを通じて,受験勉強の限界や課題を指摘することを目的とする.

 

受験勉強を通じて「情報処理能力」を身につける

 大学入試において,受験生に課される問題は,多様かつ膨大である.センター試験,私大入試,国公立入試と複数回に別れており,それぞれに問題の傾向や特徴があるため,対策をしなければならないのが通常である.また,試験ひとつひとつをとっても,単一科目の受験で済むことは少なく,文理,そしてその中でも複数の科目を受験しなければならない.したがって,多様な科目の勉強をしなければならず,受験生は多くの時間が試験一つ一つに対して必要とされる.また,出題される問題も,特にセンター試験はその色が強いと思うが,問題文で提供される情報量は多く,その読解,分析には,時間を要し,相当な訓練が必要と言えよう.したがって,受験勉強では,膨大なテキスト情報を,短時間で正確に理解する力(情報処理能力)を身につけることが必要となる.

 

現代における情報処理能力の重要性

 受験勉強によって獲得されていく「情報処理能力」は,今日において極めて重要な能力であり,基礎的な能力と言える.インターネットの普及はもとより,スマートフォンの普及によって,誰しもがいつでもネット上での情報獲得ができるようになった.そして,それは社会問題として取り上げられるほどに個人個に習慣化しており,膨大な情報に触れながら,日々の生活を過ごすのが現代人である.ネット上の情報は,玉石混交であり,その信憑性を個人で判断する必要があるため,必然的に内容を深く読み込む必要がある.
 また,誰しもが簡単に情報にアクセスできるようになっただけに,それを前提として物事が進むこともある.従来ならば,情報にアクセスできないことを理由に,調べることが必要とされなかったことも,ネットで検索すればすぐに分かる現代では,従来以上のデータ収集と分析は行っていることが,当然必要とされる.このときには,官公庁や調査会社の提供している膨大なテキストデータを短時間で読み込み,理解し,分析して自分なりの考えをまとめ上げることが必要である.
 以上のように,現代で生活していく上で,情報処理能力は基礎的な能力であり,情報のあふれる現代ではその重要性は,従来よりも増しているものと考えられる.

 

受験勉強を通じたマインドセットの獲得

 受験勉強は,「丸暗記」を助長させるとの批判も多い.しかし,前述したとおり,入試で課される科目数は多く,丸暗記をするにしても,それは能力的,時間的にも非常に難しいことと言える.一部の苦手科目や分野はやむなく丸暗記で臨むにしても,丸暗記だけで入試を突破するのは,現実的には不可能であると思われる.したがって,現実的に完全な丸暗記が不可能な以上は,問題に対して,自分なりに仮説を立て,論理を展開し,正解を導き出すという,正統な姿勢で受験勉強に臨まなければならない.実際には,その能力が正しく身につかないにしても,問題の背景にある原理やメカニズムを知ろうとし,自分なりのロジックを組むことで問題解決をしようとする姿勢は身につくはずである.こうした過程を通じ,問題解決に臨むにあたって必要なマインドセットを,受験勉強を通じて身につけていくことが可能であると思われる.

 

双方向的なコミュニケーション能力は身につかない

 受験勉強を通じて,情報処理能力や問題解決のためのマインドセットが,身につくことを指摘した.しかし,受験勉強では身につかない能力も,当然ながらある.

 現代に限らず,他者との双方向的なコミュニケーションの必要性と重要性は,かねてから指摘されてきた.受験勉強では,こうした双方向的なコミュニケーション能力を養うことはできない.与えられた問題文から,情報を正しく理解し,自分なりの考えを答案用紙上で表現することはできる.しかし,採点者や出題者との双方向的なコミュニケーションはできない.つまり,受験勉強で身につく力は,個人で完結する能力に限られるという制限がある.

 

まとめ

 受験勉強を通じて,現代を生き抜く上で,重要な力を養うことができる.しかし,それには限界があり,他にも身につけていかなければならない能力がある.それは,受験勉強自体の問題というよりも,次のステップで,「受験生であった学生」に求められるものだと思う.受験勉強をゴールではなく,踏み台と捉え,次なる成長へと邁進するのが,大学での学びであると思う.

読書録「確率思考の戦略論」

 マーケティングに確率論的な考え方を全面的に取り入れたのがUSJである.それが詳しく紹介されているのが以下の本である.この本の中で紹介されているフレームワークやモデルについて,まとめたい.

確率思考の戦略論  USJでも実証された数学マーケティングの力

確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力

 

 

売上予測のモデル化

 売上を決定づける要因は7つある.「認知率」,「配荷率」,「過去購入率(延べトライアル率)」,「エボークト・セットに入る率」,「1年間に購入する率」,「年間購入回数」,「平均購入金額」である.配荷率は,市場にいる消費者が製品サービスを購入しようと思えば,物理的に可能な状態にある比率である.エボークト・セット(Evoked set)とは,消費者が,製品サービスの購入の意思決定をする際に,頭の中の候補に上がるブランド群のことである.

これらの要因を基に,まずは製品サービスの年間購入者の割合をモデル化する.

 

(年間購入者の全世帯に対する割合)

=(認知率)×(配荷率)×(過去購入率)×(エボークト・セット率)×(年間購入率)

 

 さらに,年間売上は次のようにモデル化される.

 

(製品サービスの年間売上)

=(総世帯数or消費者数)×(1年間に買う人)×(平均購入回数)×(平均購入金額)

 

売上向上のための3つの方策

 前述の売上予測モデルの要因を向上させることが,企業のマーケティンの目的と解釈できる.そして,これらの要因を向上させるための方策は,3つに大別することができる.自社ブランドへの消費者のプレファレンスを高める,商品ブランドの認知を高める,配荷を高める,の3つである.つまり,企業の経営資源の配分先は,「Preference(好意度)」,「Awareness(認知)」,「Distribution(配荷)」に3つのいずれかになることを意味する.そして,認知と配荷は物理的な限界があるが,プレファレンスは,大きく改善することが可能である.そして,プレファレンスは,「ブランド・エクイティ―」,「価格」,「製品パフォーマンス」によって,決定づけられる.

 

認知率の向上

 売上向上のための方法として,認知率の向上がある.消費者となりうる人全員のうち,より多くの人に,自社のブランドを知ってもらうことが目標となる.こうした,ブランドの認知率を測る指標に,”Aided Awareness“と“Unaided Awareness”がある.前者は,ブランド名を挙げられた上で知っていると答えた人の割合,後者は,ブランド名を挙げずとも知っていると答えた人の割合である.例えば,「USJを知っていますか?」という質問に対して,知っていると答えた人の割合はAided Awarenessだが,「テーマパークや遊園地で思い浮かぶブランドは何ですか?」という質問に対して「USJ」と答えた人の割合はUnaided Awarenessである.消費者が実際にブランドを買ってくれるか否かを考える上では,Unaided Awarenessが重要である.これに該当していないブランドは,消費者のEvoked Setに入っていない,つまり,消費者の購入の意思決定時の選択時に入っていないことを意味するからである.

 特に,Unaided Awarenessの質問に対して一番最初に上がるブランドが重要である.これは,第一ブランド想起率(Top Of Mind Brand Awareness)といい,第一,第二に,自社ブランドが入っていれば,消費者のEvoked Setに入っていることと相関が高い.

 

配荷率の向上

  多くのチャネルに商品が置いてあるほど,消費者が買いたいと思ったときに買える状況にある.つまり,より多くの種類のチャネルや店舗に自社ブランドを置いてあるようにすることが配荷率を上げることにつながる.また,配荷されている店ごとに,どれだけの面積を使って自社ブランドが置かれているのか,どれくらい消費者の目につきやすい場所に置いてあったのか,と言った質的な面も重要である.

 

プレファレンスの向上

 プレファレンスの構成要素は,「ブランド・エクイティー」,「製品パフォーマンス」,「価格」の3つである.

 ブランド・エクイティ―とは,自社ブランドに対する消費者のイメージであり,これが一度消費者の頭のなかで出来上がると,なかなかそれが覆ることはない.すでに,市場に確かなブランド・エクイティーを確立しているブランドがある場合,それと同じブランド・エクイティーを勝ち取ることは難しい.差別化やターゲティングにより価値訴求する相手を限定することで,ブランド・エクイティ―をとがらせることができる.

 製品パフォーマンスは,製品のカテゴリーによって,プレファレンスへの影響度合いは変わる.薬や洗剤のような,製品の効果を消費者が厳しくチェックし,そしてその効果がわかりやすいカテゴリーであれば,製品パフォーマンスのプレファレンスへの影響度合いは強い.一方で,ミネラルウォーターのような製品であれば,消費者は違いがわかりにくいため,製品パフォーマンスは影響しにくい.

 価格は,安ければいいという考えになりやすいが,製品に対して適切な価格を設定することが長期的には重要である.良い製品を提供し続けるには,その分,必要となる経営資源も多くなる.したがって,そうした経営資源を確保するためには,それ相応の価格を製品に設定しなければならない.

 

以上

自己の価値観を探る重要性

 自分を知ることは難しい。他人のことならば自信をもって分析したり批判したりできてもいざ自分がどんな人間なのかを考え始めるとなかなか冷静に、客観的に考えることが難しくなる。どうしても自分を否定することは難しく、感情的になってしまう。自分の選択や考えを正当化したくなるのが正直なところである。イソップ物語の狐がブドウをすっぱいに違いないと自分に言い聞かせたように、認知バイアスが働いてしまうのだ。

 しかし、自分自身がどんな人間なのか、特に自分の価値観がどういったところにあるのかを知ることは重要である。自分がどんな人間なのかが分からなければ、自分がする選択が確かに自分にとっては良いものだったと納得感を持って受け入れることは難しい。そうなると、精神的に不安定になり、思考力や生産性は落ちるし、周囲の人間の意見を素直に聞くこともできなくなり、総合的に見てマイナスの影響しか及ぼさない。

 自分の価値観を知るには過去の自分の経験を丁寧に振り返り、自分がとった行動や意思決定を分析する必要がる。自分が当時持っていた問題意識や、意思決定の時に重視した点を振り返ることで自分がどんなことに重点を置いているのか、惹かれるのかを言語化していく必要がる。そうした過去を振り返りながら自分の中にある軸を探っていくことが求められる。

 自分の根底にある価値観という軸が言語化されて、納得感を得られるほどに精査されて掘り下げられると自分の意思決定に自信を持つことができる。周囲の様々な意見に対して、必要以上に影響をうけなくなる。こうした自分の価値観を明確に認識することこそが、キャリアを歩む上で重要であり、基礎となる。だからこそ、就職活動において形骸化している自己分析とは重要なステップであり、それをないがしろにすることは危険なのだと言える。

 

以上

「議論」を議論したい

 「議論」とは複数人が集まってそれぞれの意見を出し合い話し合う行為である。会社で意思決定を行うときや、研究者たちが集まる学会において行われる。また、基礎的なコミュニケーション能力を測るために企業の採用プロセスで学生たちに行わせるケースもある。しかし、この「議論」はしばしば上手くいかない。とりあえず時間をかけたものの何が決まった訳でもなくいたずらに時間を浪費しただけに終わったり、政治的に力のある人間の意見が尊重されてしまったりと、本質的に意味がある形で行われないことも多い。そこで、議論とはなになのか、どういった目的があり、メリットがあるのかについて考えたい。

 議論が行われるときは、なにかしらの決めなければならないことが存在する。例えば、会社の今後の長期的な経営計画、論文において主張されている仮説は妥当性があるのか、自社製品の事故に対してどう対応していくのか、衰退事業を撤退するべきなのか維持するのか、といったものが挙げられる。つまり、こうした意見が分かれるものの話し合う必要性がある論点が存在していることが分かる。したがって、議論においては、論点に関連する意見が出し合われなければならないし、そうでない意見は議論の場にふさわしい意見ではない。論点について答えを出して意思決定をすることが議論の目的である。

 議論の目的は意思決定をするためであり、その意思決定は企業や組織、あるいは個人にとって良い結果をもたらしてくれる意思決定をすることが求められる。よりよい意思決定をするためには、議論の場において、多様な選択肢や指摘され、メリットとデメリットが出され、様々な視点から多面的に意見が交換されなければならない。一部の人の意見が偏って尊重され、威力を持ってしまってはこの有効な議論を行う妨げになる。したがって、議論の場では政治的な力関係や役職などは関係なく、対等な立場で皆が参加する雰囲気が形成されなければならない。

 個人の議論に臨む姿勢という点から考えると、互いに尊重しあうマインドセットが必要不可欠だ。相手の意見を頭ごなしに否定したり、自分の意見を絶対的に正しいものとは考えたりしてはならない。自身の意見はためらわずに主張しながらも、自分とは対立する主張であっても、まずは先入観なく耳を傾ける必要がある。その上で、納得できる点は受け入れ、不十分な点については指摘することが重要である。そうしたプロセスを踏むことで、主張が徐々に修正、改善され、これまで見えていなかったことは見えるようになっていく。これが議論の深まっていく過程である。こうした深い議論が行われることで、見落としや思わぬ弊害を防ぎ、より正当性の高い意思決定を行うことに繋がる。

 議論には目的があり、その目的とはよりよい意思決定を行うことである。そのためには多様な意見が同等に尊重される必要がある。その上で、支持されるべき点は支持され、批判されるべき点は批判されなければならない。こうした雰囲気をつくるためには、個人のリスペクトの意識が重要であると言える。

 

以上